"モータースポーツジャーナリスト青春編" 今宮純(三樹書房)

2011/01/01
.....ま、生意気にも自らが"モーター・スポーツ・ジャーナリスト"の仲間入りを果たした以上、アレコレ勉強しなくちゃと思って読んでみた。意外なことに、それがもちろん規模の違いはあれども、出逢う→衝撃を受ける→通って観る→いても立ってもいられなくなって始める→挫折する→諦め切れない→書き始める、という流れは同じなのだということを知った。.....が、そこからが違う。尊敬する今宮氏はそこから自力で海外へ向った。そう、待ってりゃ1年にいっぺん向うからF1がやって来る我々は幸せで、マカオのギアは歩いたことがあるけど、モナコもモンツァもシルバーストンも行ったことなんぞない。そんなバリアの外側の生温いマニアの行く末は.....とてもじゃないけど先輩方の足元にも及ばないことを痛感した1冊となりましたとさ.....。

 "STINGER magazine" (雑誌/ライカ)

2010/01/01
まあ、このコンテンツは基本的に小生が読む本(アタリマエだ)を紹介し、自分とその本の関係について記す、というのが筋である。これまでも時には作者が知り合いだ、舞台が小生の生まれ故郷だ、のようにそこに何かしらの"関係性"を持たせることに意味があり、そういった作品もいくつか紹介して来た。
.....が、よもやこのコンテンツで"自分が書いてる"というものをご紹介する日が来るとは思わなんだ。'09年創刊のF1専門誌"STINGER magazine"では"加瀬竜哉 My F1 Talk"というコーナーがあり、そこでコラムを連載させて頂いているのである。
音楽人として雑誌のインタビューに答えるようなことは確かに多いが、自分で原稿を書く/出版される、というのはさすがに予想してなかった。それもこれもまず、このタチの悪いF1マニアの小生を見いだしてくれた編集長・山口正己氏のおかげであり、世間の反応がどうだろうが流行がどうだろうが、ひたすら"やり続けた"、好きこそものの.....の賜物だと思うのである。
というワケで連載が始まっちゃった以上、次の目標は自動的に"単行本化"になる次第(爆)。

 "およね平吉時穴道行" 半村良(角川文庫)

2010/01/01
1976年出版のこの古い本を引っ張り出して来たのには理由がある。それはちょいと"過去から現代へのタイム・スリップ"について考える必要があったことによるのだが、由美かおる/寺尾聡という豪華ラインアップで当時ドラマ化もされたこの作品は、学生時代に半村作品を読みあさった小生にとって想い出の一作。恋心、神隠し、そして現代での再会は....."時穴"の悪戯によって巡り逢えないふたりと、それを追う現代人。半村良スタイルのロマンスを含む傑作短編集。
.....ところでさ、結局人類はタイムスリップ出来ないで滅びるんだね。だってさ、未来から来た人に逢ったことないんだから、それは結局実現出来なかった、ってこと。ちとガッカリ.....。

 "武蔵野" 国木田独歩(新潮文庫)

2009/01/01
東京都渋谷区神山町2番地。コレが小生の生家の住所である。通った小学校は徒歩約7分、渋谷区役所裏の大向小学校(統合により現在は神南小学校)。
当時、その通学路の中間地点にコンクリートに埋もれた廃屋みたいのを"発掘調査"している人達がいた。いつしかそこは埋め戻され、大きなビルが建った。そしてそこには"国木田独歩住居跡"の碑が建っている。
.....国木田独歩という人も、武蔵野という代表作の名も知っていた。が、その舞台がまさかそこ.....いや、小生の地元だとはまるっきり考えても見なかった。だって、武蔵野って言ったら中央線で三鷹とか武蔵境とか、23区内のことだなんて思いもしない。それが渋谷区民の"普通"。
1964年生まれの小生、その70年前にそこがどんな景色だったのかをようやく知り得た1冊。

 "償い" 矢口敦子(幻冬舎)

2008/01/01
"タイトル買い"である。内容も何も知らず、我々が良くCDを"ジャケ買い"するのと同じ感覚で手に取った。

読み終わり、これはミステリーなのかサスペンスなのか、はたまた作者のエッセイなのかは全く不明だが、正直もう少し注目されても良い作品なのではないかと感じた。真人の能力は確かにSFの域を出ないが、日高の抱えたもの/最終的に山岸の抱えるもの、その罪の大きさと"償い"の方法には非常に共感出来る。ただ.....これは女性作家特有の─そして文学にはある程度必要なことかも知れないが─男性心理が少々美化され過ぎかも知れない。もしも自分が日高の立場に於かれた際、自分ならきっともっと計算高く、自分を守ろうとするだろう。ともあれ、

「心だって、致命傷を受ければ、死にます。死んでしまったら、決して蘇りません。」

大きな罪を犯し、自らその償いを放棄.....或は全うした夕子の言葉は小生の脳裏に確かに刻まれた。重く、そして痛く。

 "アイランド" 森瑤子(角川文庫)

2006/01/01
またしても女性から「是非」と薦められた二作目の森瑶子作品、だが意外な程にロマンティックなファンタジー。
近未来、とある伝説をモチーフにミュージカルのストーリーを書く男と、数々の紆余曲折の末に主役に選ばれる事になる少女が、実は伝説/空想である筈の"羽衣伝説"の主役ふたりの生まれ変わりである事を知る、と言うストーリー。コレが男なら(少なくとも小生なら)もう少しノイローゼの執事ロボットやファエトンの激突とミラクル・ウォーターの関係について書くのだろうが、どちらもマリコの決断の引き立て役となるあたりが女流作家、いやむしろ森瑶子たる所以なのだろう。マサヨ→マサイヤのくだりも、結果的に彼女が地球のメサイア(救世主)となるあたりに重きが来る筈なのは.....読み手の想像力の問題なのかも知れない。ハン・ソロはいらない、って所か(ちょっと例が極端だが)。いずれにしろほぼ同世代となる廻陽子を核としなければならなかったのが森作品の宿命だろうに、意外な程に"セクシャルで無い展開"に素直に入り込む事が出来た。

....ところで、我が加瀬家の家系図の先には実は菅原道真公がいらっしゃる。そう、為朝同様天皇家との争いの末に島流しとなった道真公である。
で、小生は幼き頃から、物体では無く意識のような状態で暗く大きな空間を浮遊する夢を定期的に見ている。
更に、昨年小生が七夕の日に天の川を探し、添えぬ伴侶を想って泣いていた事は御承知の通り。
そして貴女は小生に「この作品をヒントに舞台を.....」と、廻陽子のようにオファーして来たのである。

.....さあSちゃん、まずは一緒に与論島に井戸を探しに行こう!。

 "半落ち" 横山秀夫(講談社)

2005/09/23
.....ああそうだとも。"愛ってナンだ?"が今の小生のテーマだ。
で、この"週間文春ミステリーベスト10/第1位"作品である"半落ち"。'04年に映画化されたが、果たして映画がどのような表現法なのかは知らない。が、少なくとも原作に於ける、取り調べを担当する刑事に始まり、検事/ブン屋/弁護士/裁判官/刑務官、と視点が受け継がれて行く手法は読む者を完全に事件の真只中に導き、同時に現代の国家公務の"裏"についても興味を沸せてくれる。.....梶は愛によって死を選びそして生かされ、志木は事件を追う内に愛を知り、佐瀬はその愛を受け継ぎ、中尾は愛する人の後押しによって勇気を持ち、植村は家族愛の中で苦悩し、藤林は梶とは違う価値観の愛を確信し、そして古賀は志木から愛を引き継いだ。
.....この作品は"ミステリー"なんて枠には納まらない、究極の愛のハナシだ。
泣けたぜ。

 "ミッケ!" ウォルター・ウィック、ジーン・マルゾーロ、糸井重里(小学館)

2005/08/01
全米で大ベストセラーとなったかくれんぼ絵本、"I SPY"の日本語版。全8册が発行されており、現在まで「たからじま」「がっこう」「ファンタジー」を制覇。
.....このクソ忙しいのにハマっております。

 "Good Luck" アレックス・ロビラ、フェルナンド・トリアス・デ・ベス(ポプラ社)

2005/04/20
難しい本だった。.....いや、中身はシンプルなのである。老いた幼なじみのふたりが再会し、お互いの人生の成功/挫折を、あるおとぎ話を引き合いに考える。分りやすく言やあ「幸運は待つんじゃなく、手に入れる為の下ごしらえと努力が必要」と言う例え話。全くもって正論である。チャンスはどこかにあるんじゃ無く"どこにでも"あり、そいつを掴めるかは自分次第。.....しかし、だ。大抵の成功者は「努力すれば必ず手に入る」と言う。だがそれは手に入った者にとっての結果論でしか無く、手に入れられない者にとっては「どうすれば良いのか解らない」、つまり「ああそうですか。で、私の場合どうすれば?」と言う、無責任な"一般人はあなた程器用じゃ無いんですよ"論で終わってしまう。ならば何故この手の本がベスト・セラーになるのか。そこにあるのはあくまでも"ヒント"だ。にも関わらず「もしかして、書いてある通りにやれば自分も成功者/金持ち?」なんて言う"教科書ガイド"的な安易な発想で縋る程、人々が自らを"不幸/負け組"と思い込んでいるからだ。勝ちも負けもネェよ、人生に。本読む程度の余裕がある人のココロの中にあるのはせいぜい"納得/不満"程度のレベルだ。この本読んで、そこまで考えなきゃ意味が無い。.....魔法のクローバーねぇ.....小生なら自分で作っちゃうかな。大好きな緑色だし(.....)。

- 以下 gerbera.jp より移行 -
 "塩狩峠" 三浦綾子(新潮社)
"一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん。
 もし死なば、多くの果を結ぶべし"





.....愛って何だ?。

 "蛇にピアス" 金原ひとみ(集英社)
 "蹴りたい背中" 綿矢りさ(河出書房)

言わずと知れた、最年少芥川賞受賞作二册である。読んだ理由はそれだけである(記者会見時の金原の挑発的な目にホレた、って噂はある)。が、ここに紹介した理由はそれじゃない。"アマ"を殺ったのは"シバ"なのか?"にな川"は社会に順応出来るのか?、なんて事でも無い。"日本文学の新しい形だ"とか、"若いのに卓越した表現力を持っている"なんて言う誰でも言いそうな事でも無い。この本達には、"オトナ"が知るべきキーワードがたくさん隠れているのである。娘が今夜何処にいるのかも知らない親は"蛇にピアス"を、子供が学校でどんな時間を過ごしてるのかも知らない親は"蹴りたい背中"を、即刻読みなさい。

 "人間・ビートルズ入門" 小島智(宝島社)
.....しばらく前、通称"ホワイト・アルバム"こと" The Beatles"('68年発表の2枚組アルバム)について、と言うかその頃の彼等の精神状態についてちょっと考えたかったので、何の気無しに読み始めた。.....そして、結局5回程繰り返し読んでしまった。当然、真実は当事者にしか解らないものなのだが、この作者の"推測"は大変興味深い。クォーリーメン、ピート・ベスト、ジョージ・マーティン、ブライアン・エプスタイン.....そしてヨーコ。リバプールの悪ガキ達と彼等に関わった人物達、そして世間、いや"世界"の反応。偶像化されたThe Beatlesを取り巻く様々な人間模様は、実は"あるひとつのポップ・グループ"の、良くある話に過ぎないのだ。

 "新しい単位" 世界単位認定協会(扶桑社)
 "こんな○○は××だ!" 鉄拳(扶桑社)
最近、あまりにも忙しくて本を読む暇が全〜然無い。なので、パラパラめくってゲラゲラ笑える、ヒジョーにお気楽なアイテムを2冊紹介しよう。
.....ま、これ以上は書かない方が良いかな.....。

 "だめだこりゃ" いかりや長介(新潮社)
小生の世代、学校でクラスメイトと話題にする最も大きな存在はテレビ番組"8時だョ!全員集合"であった(断言)。そして、初めて観た"バンド"もひょっとしたらザ・ドリフターズだったのでは無いだろうか(ザ・ビートルズ来日公演の前座を務めたのがザ・ドリフターズだった事を御存じだろうか?)。そのドリフの愛すべきリーダー、長さんがドリフ結成から現在に至るまでを綴った有難い本が本書である。ちなみに、小生の通った小学校は某・渋谷公会堂(.....。)のすぐ裏にあり、公開番組である"8時だョ!全員集合"を実際に会場で観る事数回。校庭で、渋谷公会堂搬入口からジャンボ・マックス(これ、解る奴いるのかな?)を搬入してるのを見てたりもした。また、番組マスコットとして登場したゴールデン・ハーフ・スペシャル(う〜ん、歳がバレるな)及びキャンディーズとの出会いもこの少年には衝撃であり、加トちゃんと西城秀樹氏のドラム・バトルは純粋な子供に「カッコイイ」と思わせるに十分なものだった。そんなワケで、ドリフは小生にとって永遠のカリスマなのだ。イイオトナになった今でも、機会があればドリフの番組は観てしまう(最近放送されていた長さんがベース弾いてるCM、カッコ良かったなあ)。"8時だョ!全員集合"当時はPTAや世論に色々言われて大変だったようだが、我々の世代にとって、いかりや長介と言う人物は尊敬に値する"偉大な父"のような方なのである。

追記:違った視野から見たと言う意味では志村けん氏の"変なおじさん"(日経)もオススメする。

 "セルーナの女神" 半村良(角川書店)
冒頭の通り"殆ど本を読む時間の無い"小生だが、なぜか半村作品だけは非常にたくさん読んでいる。きっかけは子供の頃に見た映画"戦国自衛隊"だったと記憶しているが、"石の血脈"や"闇の中の哄笑"、"黄金伝説"等、小生の書斎(ウソ)の本棚には実に20冊以上の半村作品が並ぶ。多分、世に言う"ファン"なのだろう。.....で、今回紹介する"セルーナの女神"は実は短編集(8本収録)であり、しかも気に入ってるのはその中の"巨大餃子の襲撃"と言う、半村作品の中では1、2を争う"クダラナイ"話だ。主人公の男女が"愛し合っている"と、宇宙から巨大な餃子のような形をした生命が飛来し、地球上で交尾を始めて終わると帰って行く。ただそれだけの話なのだが、他の作品であれだけ"常識外れな大ドンデン返し"や"理論的な状況説明"をする人がなぜこんな不可解な短編を書き、しかも読み手を引きずり込んでしまうのかが不思議でたまらないのだ。面白いかと言われれば面白いし、良く解らないと言えば確かにワカラン。が、"なぜ餃子なのか"が解った時点で沸き起こる自分の中の"爆笑レベル"は生涯最高のものだったのである。

 "ダブルコンチェルト" 森瑤子(集英社)
「なぜ加瀬竜哉が森瑤子を?」と思われるかも知れないが、それもその筈、実はこの本はある人物から薦められて読んだ、と言う小生にしては大変珍しいパターンである。実際他の森作品は知らないし、そもそもこう言う本を男性が論じる事自体が間違っているようにさえ思うのである。が、女性が物事をどう考え、何に苦悩するのかを正直且つ赤裸々に描いたこの作品を、興味深く読めた事そのものが貴重な機会であった。物語自体は恐らく作者本人の経験/理想に基づいたものだったと思うので完全に感情移入する事は出来なかったが、ひとつの形としては充分理解出来た。そしてこの本を小生に薦めた当人に向け、「胸が痛かった」と白状しておく。

 "本田宗一郎の真実" 軍司貞則(講談社)
きっと「やっぱり出たか、F-1本」と思われているのだろうが、残念ながらこれは"レース屋/本田宗一郎"の自伝とかでは無く、企業としてのホンダに於けるカリスマ社長/本田宗一郎と、経営の裏方として才能を発揮した相棒/藤沢武夫両氏の友情と確執について書かれた"ビジネスマン向け経営論"に近い。ある意味"タレント的"に看板となる人物を前面に押し出し、実権は後方で優秀で冷静な人物がコントロールする。これはある意味小生の"理想論"でもあり、実際もし藤沢氏がいなければホンダはとうに潰れていたかも知れなかったのはこの本を読んで初めて知る事となったのだから、藤沢武夫氏の功績は大きい。しかし、本田氏がいなければ藤沢氏もまたその才能を発揮する事が出来なかったのかも知れず、"ワンマンでも無ければ完全な民主主義でも無い"、バランスが見事に取れた経営方針で不況を乗り切って来た素晴しい例なのだろう。実際に"不仲説"が多かった二人だったが、藤沢氏の社葬(その2年後に本田氏もまた旅立ってしまった)に於いて本田氏が述べた弔辞の「二人で夢と情熱を注ぎ、世界のホンダ目指して二十五年間全力を尽くした我々が最後にした事は、本田技研を一緒に辞めることだった」との言葉の通り。最後まで彼等は名コンビであった事実が残された。そして彼等が残した功績は計り知れないが、小生にとっては何より"世界初の低公害エンジン(CVCC)の開発とF-1世界チャンピオンの両立"ってとこがこの会社の"カッコイイ"所なのだ。

 "命" 柳美里(小学館)
ここに1枚の写真がある。小生の隣にいるのは'00年に亡くなった劇作家・演出家の東由多加氏である。'92年、縁あって劇団"東京キッドブラザース"の公演時での演奏の機会を頂いた。そして、この"キッド"の主宰者が東氏。あまり長い期間では無かったが仕事を御一緒させて頂く事が出来、天才的なひらめきの持ち主に加え、"凄まじい大酒飲み"との印象が強い。そんな彼が食道癌で亡くなる直前、全く別の相手の子供を妊娠/出産するかつての恋人であり団員であった女性との生活/闘病を描いたのがこの本(正確には何部かに別れているが)。御本人である柳美里さんには残念ながらお会いした事が無いのだが、この本に記されたあまりにも壮絶な彼等の生き方には言葉も出ない。"出産と死別"と言う、全く正反対のプロセスに向けて交わって行くふたつの"命"、そしてその全てを受け止める作者の感情、正直言って正視出来るものでは無かった。"わたしが思い描いていたのは、東とわたしと丈陽の三人の家族が同じ箱船に乗り込み洪水を越えて新天地に向かうイメージだった(文中より)".....が、実際には想像を絶する苦悩と向き合われたのだと思う。そして、東氏がどれだけ壮絶な生き方をしたのか、彼の人生のほんの一瞬にしか立ち合えていない小生には語る資格すら無い。写真は'92年末に"キッド"主催の忘年会に招いて頂いた時のもので、東氏ともこの時が最後であった。以来、"キッド"の方々とも殆ど接点が無いのだが、"こんなに遠い"自分にも東氏との想い出があるのもまた事実なのである。

 "冷静と情熱のあいだ" 辻仁成(角川書店)
作者、辻仁成氏は小生の友人と言うか、先輩に該る人物である。経歴は御存じかと思うが、ミュージシャンでもあり、芥川賞作家でもある。作家である際は"ひとなり"と名乗り、音楽人としては"じんせい"と発音する。この"冷静と情熱のあいだ"、-かつて恋人同士だった順正とあおいが5年後にフィレンツェの空の下ですれ違い/そして重なり合う、と言う男女の想いを描いた恋愛小説であり、辻仁成が男の視点で描くBluと江國香織が女性の視点で描くRosso、と言う特殊な試みも高く評価され、映画化もして大ヒット-、と言うのは多分誰でも知ってると思うので割愛する。.....で、辻氏と小生の関係は何だ、と言うと、実は'80年代前半、お互いアマチュア時代に同じアルバイトをしていた仲なのである(職種/場所等に関しては伏せさせて頂く)。しかもそこにはECHOESのギタリストの伊藤浩樹氏もいたりして、小生も彼等のliveの手伝いなんかしたり、時には彼のアパートで飲みながら夢を語り合ったりしたモンである。当時から辻氏の文才振りは言動や歌詞にも鋭く表われていたように思う。そんな彼のECHOESが'85年、アルバム「WELCOME TO THE LOST CHILD CLUB」でデビューし、'89年には小説『ピアニシモ』で第13回すばる文学賞受賞。'91年にECHOESを解散し、後は御存じのように作家としての才能を花開かせ、'97年『海峡の光』では遂に第116回芥川賞受賞。しかも先日、中山美穂嬢との再婚等と言うウラヤマシイニュースも飛び込んで来た(「遊びに来い」とか言ってくれません?)。.....もう長い間連絡を取っていないのだが、小生にとっては今も昔も"夢に向かって進み、そして答を出す"、大変誇らしい(賞を獲ったから、じゃ無いよ)先輩なのだ。

 "こども用三代目魚武濱田成夫詩集ZK" 三代目魚武濱田成夫(学研)
なんでまたよりによって"こども用〜"なのか。実はこの本、御本人から頂いたのである。決して自慢しているのでは無い。ホントに面白かったのである。もちっと正直に言うと、最近仕事で彼と知り合うまで、小生は彼の事はあまり良く存じ上げていなかった。ところがお会いして見るとヒジョーにナイス・ガイ、しかもその物腰の低い語り口調からは想像も出来ない程にワイルドな"志"がこの本には書かれている。しいて言うなら、"大人になると言えなくなる/思えなくなる事を、子供の目線まで下げる事によって素直に発する"事が出来る人なのだ、と羨ましくさえ思う。小生もロックンローラーのはしくれ、いわゆる"ピーターパン・シンドローム"のド真ん中にいるワケで、共感するな、ってのは無理な話。もっともたまたま最新作、と言う事で頂いたのが"こども用"であっただけの事、今度大人用を購入して見ようかな、と思っている。ちなみに"ZK"は"ぜったいかっこええ"の意味だそうだ。う〜ん、良いフレーズだな。
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