D・"Tafel Anatomie Tour 〜Final〜"
2006/12/06 @shibuya C.C.Lemon hall(渋谷公会堂)   2007/01/01 up

加瀬コム内のいくつかのコンテンツでも触れているが、渋谷公会堂改めC.C.Lemon hallはオレが通った小学校のすぐ隣にあり、渋公、区役所、代々木競技場、NHKと言う、1964年の東京オリンピックを機に開発されたこの地の風景はこの40年間基本的に変わらない。そして、近隣に暮らしたオレにとって渋公と言えばなんと言っても"8時だヨ!全員集合"の公開生放送の会場。生まれて初めて入った大ホールでもあり、その後多くのコンサートを観た、渋谷区民の誇る歴史と伝統の会場なのである。
そして2006年12月、遂に我らがDがそのステージに立つ。
結成後の初アイテムとなった"New Blood"から3年半、常に制作を共にして来たD。先日、我がbazooka-studioのpodcast・"radio-bazooka!!"に出演してもらった際にも触れたが、この1年間彼等には多くの変化/進化が見られた。まず、丁度1年前のTsunehito(bass)の加入。前作"The name of the ROSE"製作中のアクシデントを乗り越え、最強のラインアップとなって渋谷AXのステージに帰って来たのが奇しくも2005年12月5日であった。そして2006年になると春にはギタリストのRuiza、夏にはヴォーカリストのASAGIと、立て続けにソロ作品をリリース。オレ自身普段のDの作品でkeyboardパートを担当させて貰っているが、今回Ruizaのソロではbassを、ASAGIのソロではguitar/bass/violin/programingなど、これまで以上に貢献の場を与えて貰った。そしてDサウンドの中核を担うふたりのソロ作品制作は本家Dへの多大なるフィードバックを齎し、満を持して2作目となるフル・アルバム"Tafel Anatomie"の制作がスタートした。
Tafel Anatomieはコンセプト・アルバムであり、人間の肉体/精神の内面へと踏み込んだ"解体新書"的なこのアルバムは、これまでよりも更に深いASAGIの"世界観"に満ち溢れている。この"世界観"や"空気感"などのミュージシャンが良く口にする言葉は近年容易に使われるが、大抵の場合"雰囲気"と言う言葉に置き換えられるほどあやふやで無責任な表現であり、容易に使われれば使われるほどますますイメージがぼやけてしまう危険な表現とも言える。が、ASAGIはまさにこの"世界観"と言う言葉が相応しいアーティストであり、オレ自身、彼以上にイメージを具現化するために手を抜かないアーティストを知らない。同時に、その具現化へ向けて彼のイメージを理解するため、夏のソロ制作での共同作業は非常に有意義なものとなった。そして、その集大成として完成したのがセカンド・アルバム"Tafel Anatomie"なのである。
多くのツアー、インストア・イベントなどの合間を縫って、Dはツアー・ファイナルとなる渋谷公会堂公演に向けてもうひとつのオファーをくれた。
「渋谷公会堂で無料配布するメモリアルCDを、ファンへの感謝の気持ちを込めた作品として作りたい」
.....ご存知ない方もいるかも知れないが、Dは結成以来、如何なる事務所やレーベルにも所属しない。全ての裏方業務を自分達と数少ないスタッフでこなすと言う、一見無謀な方法論で、しかし遂に渋谷公会堂ワンマンまでやって来たのである。そしてその裏には、多くの外部からのスタッフや協力者、そして何よりも一緒に歩んで来たファンの支えがあったからに他ならない。そして彼等は2007年、遂にファンクラブを発足する。ただでさえ多忙な彼等がその決断をした理由は感謝の気持ちに他ならない。そして、その発表をtour finalの渋公のステージ上から行い、彼等は感謝の気持ちを込めてこのメモリアル曲を贈りたいのだと言う。

"Ultimate Lover"
僕に残されたものは愛を歌うことだけ 君が思うよりずっと僕は君を思っている

.....ファンクラブの名称は"Ultimate Lover"となるそうだ。素敵なアイデアじゃないか。
そしてTafel Anatomie tour final、渋谷公会堂ワンマン当日。春に日本青年館で初ホール・ワンマンを行ったDだが、当然その上を行くキャパシティとスケールを誇る大会場である。朝早くから多くのスタッフの手によって機材搬入やステージの仕込みが開始され、巨大なTafel Anatomie tour finalのセットが徐々にその全貌を現して行く。
もうひとつ、実は我々には大きな仕事があった。この日のステージはビデオ・シューティングされ、D初のライヴ・DVD作品としてリリースされるのである。結成3年半、いくつもの節目のライヴを行って来たDだが、これまでただの一度もライヴDVDを制作していない。多くのバンド達が定期的にリリースするアイテムを彼等は気にも留めず、満を持して今回の決定に至ったのである。初ライヴDVDが渋谷公会堂.....カッコイイぜ。
で、当然我がbazooka-studioがこの公演のライヴ・レコーディングを担当するワケだが、実は我々にとっても渋谷公会堂はこれまでで最も巨大なホールとなる。本来全てが手元に準備されているレコーディング・スタジオの人間にとって、ライヴと言う目的と理由で構成される異空間での仕事は想像以上にタイヘンなのである。が、Dの晴れ舞台とあってはやらねばならぬ!。ウチのスタッフも午前中からシステムを会場に持ち込み、舞台袖からケーブルを引き回し、楽屋の一室に臨時のレコーディング・ブースを設置。舞台上で進むサウンド・チェック/リハーサルと同時進行で準備を進めて行く。今回も妥協を許さないメンバーの綿密なリハーサルで予定時間を上回ってしまったが、最後に本番数日前にASAGIと作ったばかりのオープニング・S.E.をチェックし、音響/録音関連の準備が終了したのは開場時間直前であった。
定刻をやや過ぎ、2,000人のファンで埋まった会場に場内の注意事項を案内するアナウンスが流れる。「本日は撮影のためビデオカメラが入っているのでご注意を。これは後日DVD化され.....」場内から一斉に拍手と歓声が上がる。.....実はDVD発売はまだ発表される予定ではなかったのだが、ちょっとした手違いで開演前にそこにいる全員が知ることとなってしまったのである(苦笑)。ともあれ、詰めかけたファン達にとっては開演直前に飛び込んで来たこの嬉しいニュースにより、いっそうテンションが高まったワケだ。
― 我が血は言葉 眼を閉じよ 如何なる耳でも聴こえぬ 五体の肉の為す業は真の心のみぞ知る ―

ASAGIの声に導かれ、D版解体新書"Tafel Anatomie"tour finalはこれらのコンセプトの元となった"蒐集家(コレクター)"でスタート。幕が開き巨大なステージ・セットが姿を現し、しかしそこに立つDのメンバーの圧倒的な存在感が観客を飲み込んで行く。"Fanfare"〜"Night-ship"D""では4,000本のDフラッグが舞い、"闇より暗い慟哭のアカペラと薔薇より赤い情熱のアリア"ではD史上最大規模のマグネシウムが炸裂。"Glow in the sun"のミラー・ボールはこれまでになく美しい光景を魅せてくれた。
だが、特筆すべきはステージ上のメンバーの存在感である。僅か半年前、日本青年館で初のホール・ワンマンを行った際は慣れないホール演出にメンバーも、それを見ている客席にも戸惑いが生じた。が、この日の彼等は違った。全てが未知のスケールであるにも関わらず、完全に"そこにいるのが相応しい"頼もしいバンドに進化していた。観客達も精一杯Dに応え、これまでで最高の一体感を持った公演となった。
二度目のアンコールの際、ASAGIの口からファンクラブ"Ultimate Lover"の発足が告げられ、悲鳴にも似た歓迎の声が上がる。関係者席のすぐ前にいた女性客は「待ってたよ〜!」と言いながら顔を覆ってしまった。.....オレも貰い泣きだよ。そして皆に向け、Dから感謝を込めて新曲"Ultimate Lover"が初披露される。初めて聴くその曲に、観客達はすぐに応え始める。馴染みの曲も初めての曲も、同様の一体感を以て展開するライヴ。それは全てのアーティスト達にとって究極の理想なのだ。
2,000人の大合唱による"EDEN"で2時間半に及ぶ公演が終了。流れる終演S.E."EDEN〜piano folte〜"の中、さっきの女性客は「本当に嬉しい。ファンクラブ、ずっと待ってたんだ!」と喜びを隠せないでいた。そんな貴女達を、彼等は"Ultimate Lover"と呼ぶんだよ。
.....見守る側からすれば、ビデオ・シューティングとライヴ・レコーディングを兼ねた初の大ホール公演ほど不安なものはない。が、その心配はものの見事に裏切られた。演奏、演出、そして反応までもが完璧に一体となった素晴らしい時間を過ごすことが出来た。最後のMCでASAGIはステージ上でレモンを絞って飲み干し、「今日からここはD.D.Lemon hallだ!」と恍けていたが、事実Dは渋谷公会堂/C.C.Lemon hallに相応しいバンドとなっていた。このホールの側で育って来たオレ自身、こんなに嬉しいことはない。が、Ruizaの語った"次の目標"へ向け、我々は出発しなければならない。さあ行こう、我らの航路に!。


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